今回はピアノを打楽器として見てみましょう。
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鍵盤を押さえると、テコの応用でハンマーが弦を叩くということは鐘や太鼓と同じです。
音量は叩くハンマー(あるいはバチ)の速さに比例します。音色は叩く場所によって変わります。
それは弦のところで示しました倍音の出方が変わるからです。
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ピアノの場合は2点で止められた振動部分のどちらかの端から 1/8のところを叩くのが基本です(Fig.1)。
それを打弦点と言います。しかし、高音部2点ハ音あたりから最高音にかけては1/10、1/12、1/24と端に近いところを叩きます。
それは倍音を強調するためです。
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例えば、最高音C4の場合は弦長が50ミリ前後とすると、その1/24は2ミリから2.16ミリのところを叩きます。
低音弦は1メートル(1000ミリ)以上の長さがあるので、1ミリや2ミリ位の誤差はさほど問題になりませんが、
高音へ行くに従い、0.1ミリの差で、節を叩くかはずれるかによって鳴り方が大きく変わります。最終的には出た音で判断し、調節します。
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同じ意味で、音を止める場合は、ダンパー(フェルト)で止める位置を節からはずします。
しかも2箇所で止めるようにするのです(Fig.2)。もし、節の上を押さえると、かえって倍音が出て音が止まらないということがあるからです。
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しかし、以上のことは理論上の話であって、構造上、実際は無理な部分があり、また、
理論通りにすることが必ずしも音楽的であるかどうかは別問題なのです。そこに各メーカーの工夫があります。
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いつの頃からか、日本語ではピアノは弾く、オルガンは奏でると書きますが、弾ずる、弾む、というと、いかにも叩きまくるとか激しさを感じます。
昔、音楽評論家の大木正興さんが「ピアノの歴史」というラジオ番組で話されていたなかで、ドビュッシーが弾いているのをある人が聞いていて、
ピアノがハンマーで弦を叩いているということを一瞬忘れさせるものがあると言った、というくだりがありました。
もっとも、ピアノの性能あるいは整音の仕方も影響するのですが、何といっても弾き方にあると思うのです。それはペダリングも含んでの話ですが。
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当然、強く叩けば音量は上がるのですが、やはり限界があります。限界とは、弦も響板も最大振幅をした時のことですが、
それを越えるとどうなるか考えてみて下さい。まず、音が割れる、かえって詰まってしまう、雑音が出る。
つまり、割れるということは、弦も響板も乱振動を起こしているのです。
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ハンマーが弦に触れて離れる時間が通常 1/200秒とすると、強く叩き過ぎるとかえって接触時間が長くなるということになります。
雑音が出るというのは、弦を止めている部分が支えきれず、その部分で弦が踊って、別の振動が混ざる、あるいは断線するという状態です。
そこから出ている音はむしろ悲鳴に近いものです(それを良いという人もいますが)。
また、曲によっては打楽器的なものもあり、ことにプロコフィエフなどはその一例でしょう。
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ピアノが誕生して 300年。今もメーカーが腐心していることは音量を上げること、音が長く延びることです。
叩いた時の音が一番大きく、次第に減衰していくのが打楽器の特徴です。クレッシェンドは出来ません。
音を狂わせて、2、3秒後の唸りをピークにするというテクニックは調律で出来ますが、それも中音以下での話です。
しかし、作曲家はそれをむしろ必ず減衰するという性質を利用した技法を使っています。
もし、ピアノがオルガンやヴァイオリンのように音が長く延びれば、作曲の方法も変わったはずです。
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そこでペダルが登場するわけですが、普通ラウドペダルと呼ばれている右側のペダルはダンパーペダルとも呼ばれています。
ダンパーというのは、最低音から70鍵前後までの弦の振動を止めているものです
(最高音の1オクターヴ半ほどはダンパーがついていない、すなわち鳴りっぱなしの状態)。
ダンパー一つ一つは鍵盤の奥で連動していますが、実はダンパーの足が下に延びていて1本のレールの上に乗っているのです。
ペダルを踏むことによって、レールを持ち上げると、全部のダンパーが弦から離れて、弦は開放されます。
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つまり、 230本の弦が全て、共鳴弦になるのです。従って音量が上がるように聞こえるのです。
また、高い音も低音弦に共振するので長く延びて聞こえます。それは高音の原音を聴いているのではなく、低音の倍音を聞いているのです。
弦楽器は全て、よく響かせるには、開放弦にいかにうまく響かせるか、つまり倍音の使い方にあるとも言えます。
かといって、やたらとペダルを踏むと音が濁ってしまうので、気をつけなければいけません。あるピアニストはペダルは耳で踏むと言ったとか。
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最近の日本製のグランドピアノにはどれもペダルが3本ついています。真ん中のペダルはソステヌートペダルと呼びますが、
鍵盤を押さえ、上げる前にペダルを踏むと、押さえた鍵盤のダンパーだけが開放状態になります。
ペダルを踏み続けている間、その音とそれに共鳴する音だけよく延びて、あまり音が濁らないということになります。
低音弦だけ全部開放するという方法をとっているメーカーもあります。(アメリカの竪型のピアノにみることがあります。)
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次に左側のソフトペダルですが、ウナコルダ(1本弦)とも呼んでいます。ソフトというのは文字通り柔らかいということでしょうが、
一般的には弱音と解されているようです。時代により、メーカーにより3通りの方法があります。
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まず、一般的なのは鍵盤を少し(3ミリ位)横へずらせて、弦を1本だけ叩くことです。
これはベートーヴェンの頃のピアノは1音が2本の弦で鳴らしていた頃の名残です。
現在は1音に3本の弦を張ってあるので、少しずらせた位では1弦になりません。
1弦になるまでずらせると隣の弦にあたってしまうので、それも出来ません。
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従って今はドゥア・コルダ(2本弦)になるのですが、実際は2本半(Fig.3)になります。
そうすると、ハンマーの山の部分の柔らかい部分で叩くので、音色が変わり効果が得られるのです。
また、ずらせ方によっては削れた斜めの部分(Fig.4)で弦をこするような格好になって、それなりの効果をねらう人もいます。
しかし、使いすぎるとFig.5のようになり、あまり効果が出なくなる場合もあります。
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もう一つの方法として、私の工房に今あるスクウェア・ピアノにみる様にハンマーと弦の間にフェルトをはさむ方法です。
これもフェルトの厚みを少しずつ変えてやると踏む度合いに応じて効果が違うことは考えられます。
しかし、これも使いすぎるとすぐ穴があいてしまいます。
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3つ目の方法は、ハンマーの打弦距離を短くすることです。
通常は弦とハンマーの距離が45ミリ~50ミリあるものが、半分位まで縮めてやると、運動エネルギーが半分になり音量が下がるというわけです。
竪型はほとんどこの方法がとられています。これは鍵盤を強く叩けば何の効果もありません。
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現在のピアノは3本ペダルが常識になっていますが、数年前に発表されたファツィオリ(イタリー製)というピアノは4本のペダル、
つまりハンマーを持ち上げて打弦距離を縮める竪型のソフトペダル方式を加えたものです。
フォルテピアノ時代には5本以上ついていたものがあります。
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いずれも色々な効果をねらったものですが、本来ピアノは歌うことの下手な楽器です。
それをいかにして歌わせるかがピアニストの腕の見せどころです。それは、ペダルの使い方につきるとも言えます。
しかし、ラウドペダルは響かせるもの、ソフトペダルは音色を変えるもので、あくまで強弱は鍵盤で行います。
ペダルはボリュームの調節器ではないのです。ピアノは猫が歩いても人間が弾いても同じ音がするという話がありましたが、
ピアニストの皆さんは猫に負けないようにして下さい。