今から30年余り前の事、ピアニストを目指すお嬢さんに言われた事が有る。
「20世紀の音が有っても良いとおもう」
それは、そのお嬢さんが弦を切りまくるので、「どうしてそんなに叩くのか」と言った時の返事だったのです。
ロジックとしては成り立っているので、反論しませんでした。
実はベヒシュタインのグランドピアノを薦めていたのですが諦めました。
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何時の頃からか、ホロヴィッツの音は鋼鉄の響きという言葉を聞くようになりました。
評論家を初め一般の音楽愛好家達、全てとは申しませんが、共通項は、迫力なのです。
そうした時、特に問題になるのはフォルティシモなのです。
又、ピアノは鍵盤を強く叩けば際限なく大きくなると思い込んでおられることです。
調律師までも・・・これははっきり言って間違いです。
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少し前の話になりますが、ある調律師が開発したインシュレターに板バネを細工して作ったと聞きました。
すると音が金属的になり、ヤマハの人もスタインウェイの人も感心し、挙って採用したと聞きました。
その後、世界で特許を申請中だとか・・・。
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京都コンサートホールのスタインウェイのフルコンを10年で買い替えたと聞きます。
最初の5年程で、弦とハンマーの消耗が激しく、取り替えたというのです。
それから5年経って又同じ状態になり、「二度もオーバーホールをして使うホールは無い」と言われ買い換えたそうです。
(本当は、これはオーバーホールとは言いませんが・・・)
管理の仕方にも問題は有りますが、大方はピアニストに原因が有るのです。
以前にもNHKのテレビニュースで、オーケストラの団員が音量で神経が侵されていると言う話がありました。
130デシベル?ジェット機が飛び立つ音量なのだそうです。
その後、女性アナウンサーが一言「難しい問題ですね」と仰いました。
私にすれば、全体の音量を下げれば済む話で何も難しくないはずですが・・・・
昔と違って、ホールが大きくなり収容人数も多くなったと言うのです。
この考えが何処から来たかと言えば、コンクールとオーディオの普及に有ると思うのです。
つまり、電気音が根源なのです。そして今や音楽界を支配している人は録音技師なのです。
録音技師が、調律の仕方も、ピアノの弾き方まで指示するのだと聞いております。
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其処には、根拠の無い、実に馬鹿げた話が有ります。
或るピアニストがグランドピアノの大屋根支えを一杯に上げ更に短いのを立てると音が良くなると
録音技師が言ったと聞きました。アンテナのつもりでいるのかな?
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又、ある方面から頂いたレポートの中に、スタインウェイの音量が大きいのはフレームに空けた穴の形なのだ。
従って、今後の進歩の為に、この穴の形や大きさを研究する必要を説いておられます。
そういえば、あの穴にマイクを向けて音を録っている光景を時々見かけます。
以前にも、フレームを止めている洒落たカップ型のネジが音量や音色に関係していると言った人もいます。
更に、ヤマハのホームページをみると
「ピアノの弦は鋼鉄製。鉄板で増幅する方が効率的でいいはずだが打弦音をそのまま増幅すると
シャンシャンというノイズが出るので、鳴り過ぎを防ぐ為に木を使っているのだ。
とりわけ、木の仲間でも松系の樹種が高次倍音を吸収して、まろやかに感じられる高さの音のみを
豊かに響かせる特性を利用している」と言うのです。
つまり、響板でなく不響板なのだ!!と結論付けているのです。
どうしても、ピアノは鋼鉄の響きでなければいけないようですね・・・困った事です。
ここに、ノイズと言う言葉が出てきます。これはまさしく電気用語です。
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昔から日本では、楽音と雑音とわける考えがあります。端的にいえばデジタルの世界です。
もう一つ,“まろやか”と言う表現を使っています。
デジタルの世界で、このような抽象的な表現は馴染みませんね。
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人間は、古今東西変らぬ共通した生理的防衛能力(自律神経)を備えております。
多少個人差は有るにしても、限界を越えた音量や光に対して防御反応が働きます。
長時間それに晒されると、当然神経が侵されます。そこを基本に考えて欲しいのです。
音楽を聴いて癒される事は有っても、病気になる事だけは避けなければなりません。
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歴史を持たない日本で戦後突然起こったピアノブームが、オーディオと共に最新鋭の高級工業製品として迎えられ、
車と同じ感覚で商売人が作ってきました。私は、こうした考えに対して、常に疑問を抱いてきました。
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先日、出版されたピアノマニュアルと言う本に出会い、著者が二人の外国人と言うことで
日本人とは違った考えを期待して読んでみた所、ピアノの寿命は6・70年とかNHKで聞いたような
事を言っているので、改めてこの本の発行所を見ると、株式会社ヤマハでした。
今や、ピアノ業界においてヤマハの存在は世界を席巻しております。
この本を読んで驚いた事は、調律師と技術者が別であることでした。(今や、それが常識)
なるほど、巷で時折耳にする間違った概念と符合する事が幾つも思い出されます。
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どうして、このような職業が生まれたのか、それをこれから説明いたします。
私がこの世界に入った頃は、1人前の調律師として資格を得る為には、3年から5年の修行を
メーカーで受け、それ相当の技術を備えていると認められた上で、二人の推薦者の下、
試験に受かれば、始めて(全国ピアノ技術者協会員)として認められると言う制度でした。
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私が6年の修行を経てヤマハに就職をした時、UPだけで日産100台造っていました。
その調律を10人でこなすというノルマを課せられていました。
或る日、朝礼で職長から、日産400台に上げると言うお達しが出ました。
「人を増やして増産したのでは増産にならない」と言うわけでベルトコンベアーを導入。
私は、即刻退社いたしました。(在籍期間半年)昭和35年(1960年)の夏の話です。
その後、ヤマハは日産400台はおろか、800台、1000台造られた時もあります。
因みに、私の修行先は東洋ピアノ(アポロ)で、月産50台位でした。
昨年ヤマハが買収した、ウィーンの超一流メーカー、ピアノのロールスロイスと謳われた
ベーゼンドルファーは買収されるまでは年間100台弱のペースを保っていたようです。
1824年創業2009年までの185年間の総生産台数は6万台。ヤマハだったら3ヶ月です。
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当時ヤマハの技術者養成制度は1年でしたが、商売人が販売の上で、サービス合戦を始め、
ピアノの納品直後と、更に一年間2回まで、計3回無料調律を始めたのです。
そこで調律師が足らなくなり、養成所を作り携帯用電子チューナーを開発し、女性を交え
それを3ヶ月で使いこなせるよう指導しました。所謂チューナー調律師の誕生です。
それが、今や、一般に言われている調律師と呼ばれるアフターサービスマンなのです。
この本は、其の方達の為に書かれたマニュアル本だったのです。
其の方たちは、調律以外一切やらないので、「整音やアクションの調整は技術者に頼め」
と書いてあるのには驚きました。調律師はピアノ技術者ではない?技術者とは何ぞや?
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ベルトコンベアーの世界での工員は、歯車の歯の1つに過ぎません。
当然、工場では技術者は育たなくなりました。単なる組み立て工員でいいのです。
位置出しから穴あけまで全て機械がやってくれるからです。
必要なのは、そうした機械を開発する技術者なのです。
「ブームはメーカーが起すものだ」(本田宗一郎)とばかり、ひたすら安価で量産を目指し
部品は規格化され、自然の木の供給は人工乾燥しても追いつかず、プラスティックを初め
あらゆる新素材を駆使して、本来の芸術品とは凡そかけ離れた世界になってしまいました。
それを、“進歩”と言うのだそうです。
確かに、大衆化と言う意味では、一役果たした事にはなりますが・・・
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ピアノの歴史は300年といわれています。
更に遡る事200年余りの歴史を持つチェンバロに、ハンマーをー付けたのが、ピアノの始まりで、
それは、鍵盤に対する発想の転換だったのです。
つまり、鍵盤の押え方によっておこる表情の変化を求めたのです。
それまでは、鍵盤は単なるスイッチで、オルガンやチェンバロに見られる様に、幾つかのレジスター
(ストップ)を使って音に変化を求めていました。
その名残も有って、当時のピアノには5本ものペダルの付いたものも有りました。
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もう一つ、バッハが愛した楽器、クラビコードは、鍵盤の抑え方でビブラートや音程を変えて純正調の
ハーモニーを出す事も出来、非常にデリケートな楽器ですが、如何せん音量に乏しく、
素人にはとても弾きこなせる代物ではなかったのです。
ピアノには、打弦と言う意味で、其の両方を取り入れた部分も有るので、寧ろクラビコードを、
ピアノの祖先と捉える人もいます。
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ピアノは、それらの長い歴史を踏まえた上で生まれてきた最新鋭の楽器で、製作者は、当時の作曲家であり、
演奏家だったのです。(クレメンティー、プレイエルは有名です)
従って、音色も鍵盤のタッチも、彼らが考え出したもので、連打とかトレモロ等、製作する上で最初に
考えることであって、当時の曲を聴けば楽器の性能は全て証明されています。
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日本でピアノを作り始めたのは、1887年とフレームに記されています。
其の時点には、リストもショパンもこの世に居ませんでした。
ピアノには既に鉄のフレームが組み込まれていました。
それを見たヤマハさんがピアノは鉄で出来ているのだと思い込んだのに違い有りません。
しかし、著者であるイギリス人まで、すっかりヤマハナイズされているのには驚きです。
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兎に角、ピアノに対する認識の間違いは、フレームを使うことによって、又、交差弦によって
性能が進歩したと思い込んでいる事です。
翻って、半鉄や、抜き鉄や、平行弦のピアノは駄目だと断じている事です。
更に、こうしたピアノは、博物館行きだ、とまで言っております。
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もう1つ、縦型ピアノは、グランドよりも性能が落ちる、と思い込んでいることです。
それは構造を知らず、耳も使わず、見た目と間違った噂や余程、程度の悪いピアノを対象に見て言っているのです。
作意を感じます。
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先ず、一番大きな間違いは、鉄のフレームに対する認識です。
鉄フレームは、ピアノの発達と共に、重量を軽くする為と安価なので行なわれた措置なのです。
良いメーカーは金属を使うことによって、木の響きを損なう事を尤も嫌った節が有ります。
それは、木のフレームと鉄のフレームの間にフェルトを挟んでいる事で証明されます。
鋳鉄のフレームはあくまで木のフレームの補助として、使われているのであって、全て鉄に取って代わられたのでは有りません。
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鋳鉄のフレームを使い始めたのは、アメリカのピアノメーカーなのです。
大陸横断鉄道の開発で、鋳鉄技術が進んでいたと言う事も、関係しているようです。
兎に角、ピアノが大型化することにより、問題になったのは全体で20トン以上に及ぶ張力との戦いです。
其の支えに、従来の木に変って鋳鉄が使われたのは、木よりも強く、安価てしかも短時間で量産できるからです。
(木だと、大きくなり重くて持てなくなるからです)
ヨーロッパのピアノも、半鉄、抜き鉄、総鉄骨と変って行きますが、それこそ時代の流れで、
安く創るため止むを得なかったのです。
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平行弦は安く創る為で、時代遅れと言う乱暴な書き方をしていますが、交差弦の欠点が判っていません。
つまりピアノの構造が掴めていません。
著者は、ピアノの根本治療を行なった事が無いのか、気がついていないようです。
平行弦は一方向に力がかかっているのに対し、交差弦は張力が左右に分散されます。
其のバランスによって捻じれ方が変ってくるのです。ピアノが捻じれる?皆さんには考えられないでしょうが、
20トンと言う張力は半端ではないのです。縦型もほぼ同じです。
其の上、フルコンに至っては600キロの重量が常に3本の足にかかっています。
結果、キャスターの向きによって、本体にかかる力を読み取らなければなりません。
其れに合わせて、キャスターの向きを変えなければなりません。
この意味の判る人に、今までお目にかかった事は一度もありませんが、私のお客さんの何人かは、気付いてくれました。
其の違いは、原音の響きに現れます。高次倍音ばかりに気を取られていては判りません。
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映像で見る限り、どのホールの演奏会でも、キャスターの向きは悉く外を向いています。見事に逆さまなのです。
唯一、グレングールドの映像で、意識して内側に向けた物が有りました。
カメラマンは、手や顔ばかり大写しをして、全体を写さない(特に足元)ので解かりにくいですが、・・・
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今回はここまで、構造について、間違った概念の続きは、この次。
最初にお話したお嬢さんは、その後ドイツへ留学なさいました。
2年の予定が大幅に伸びて、チェンバリストになって帰ってこられました。